論語詳解198泰伯篇第八(14)その位に*

論語泰伯篇(14)要約:自分の担当でもないのに、他人の仕事にあれこれと意見をするな。他人はほっとけ、という孔子先生らしい発言ですが、残念ながら漢字の語法に疑いがあり、春秋時代に語られた言葉だとは思えません。

このページの凡例

論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

子曰、「不在其位、不謀其政*。」

校訂

武内本

清家本により、文末に也の字を補う。

定州竹簡論語

……在其位,不謀其正。」205


→子曰、「不在其位、不謀其正。」

復元白文

子 金文曰 金文 不 金文在 金文其 金文位 金文 不 金文論語 謀 金文其 金文論語 正 金文

書き下し

いはく、くらゐらざらば、まつりごとはからず。

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 孔子 肖像
先生が言った。「その地位にないなら、その事務処理には手を出さない。」

意訳

ニセ孔子
他人の仕事は放っておけ。自分の仕事に集中しろ。

従来訳

論語 下村湖人

先師がいわれた。――
「その地位にいなくて、みだりにその職務のことに口出しすべきではない。」

下村湖人『現代訳論語』

現代中国での解釈例

孔子說:「不在那個位置上,就不要想那個位置上的事。」

中国哲学書電子化計画

孔子が言った。「そのような地位にいなければ、全くそのような地位の事を思ってはならない。」

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

、「 。」


花の構造
(c)白岩卓巳

漢文で最も多用される否定辞。ただし音を借りた仮借で、もとは花のガクがふくらんださま。初出は甲骨文

『学研漢和大字典』によると象形。不は芣(フウ)や菩(フウ)・(ホ)(つぼみ)などの原字で、ふっくらとふくれた花のがくを描いたもの。丕(ヒ)(ふくれて大きい)・胚(ハイ)(ふくれた胚芽)・杯(ふくれた形のさかずき)の字の音符となる。不の音を借りて口へんをつけ、否定詞の否(ヒ)がつくられたが、不もまたその音を利用して、拒否する否定詞に転用された。意向や判定を打ち消すのに用いる。また弗(フツ)(払いのけ拒否する)とも通じる、という。詳細は論語語釈「不」を参照。

論語 在 金文 論語 在 解字
(金文)

論語の本章では、”ある仕事を担当する”。初出は甲骨文

『学研漢和大字典』によると会意兼形声。才(サイ)の原字は、川の流れをとめるせきを描いた象形文字で、その全形は形を変えて災(成長進行を止める支障)などに含まれる。才は、そのせきの形だけをとって描いた象形文字で、切り止める意を含む。在は「土+(音符)才」で、土でふさいで水流を切り止め進行を止めること。転じて、じっと止まる意となる、という。詳細は論語語釈「在」を参照。

論語 其 金文 論語 箕 其

論語の本章では”その”という指示代名詞。初出は甲骨文。原義は農具の箕で、その意で使われることはほとんど無い。それゆえ改めて竹を加え、箕という字が作られた。

『学研漢和大字典』によると象形文字で、其の甲骨文字は、穀物を載せる四角い箕(キ)(み)の形を描いたもの。金文は、その下に台の形を加えた。其は、のちの箕の原字だが、その音を借りてやや遠い所の物をさす指示詞に当てた、という。詳細は論語語釈「其」を参照。

漢字にはこのように、派生字の語義をもかつては担っていたが、現在ではその語義を失っているものがある。

論語 位 金文 論語 位
(金文)

論語の本章では、”仕事”。論語の時代に通用した文字では、「立」と区別していない。つまり「立」と「位」は同じ言葉だった。初出は西周末期の金文

『学研漢和大字典』によると会意文字。立は、人が両足でしっかりたつ姿。位は「立+人」の会意文字で人がある位置にしっかりたつさまを示す。囲(まるくかこむ)-胃(まるくかこんだ胃袋)などと同系のことばで、もと、円座のこと。まるい座席にすわり、または円陣をなして並び、所定のポストを占めるの意を含む。また、のち広く、ポストや定位置などの意に用いられるようになった、という。詳細は論語語釈「位」を参照。

論語 謀 金文 論語 某 謀 梅 字解
(金文)

”たくらむ・はかりごとをする”。詳細は論語語釈「謀」を参照。

この文字は、甲骨文や論語の時代に通用した金文では「某」と書き分けられていない。『学研漢和大字典』によると、ごんべんが付くことによって、”後ろ暗い事を相談する”という意味に転じたのであり、春秋時代では”薄暗い(事)”という名詞で、動詞の機能を獲得していなかった。このことから論語の本章は、ごんべんを伴うようになった戦国時代以降の作文だと判断できる。

政→正

論語 政 金文 論語 政
(金文)

論語の本章では、”仕事の詳細・事務処理”。初出は甲骨文

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、正とは、止(あし)が目標線の━印に向けてまっすぐ進むさまを示す会意文字。征(セイ)(まっすぐ進む)の原字。政は「攴(動詞の記号)+(音符)正」で、もと、まっすぐに整えること。のち、社会を整えるすべての仕事のこと。『字通』によると、”事務を処理する”の意ですでに金文に用例があるという。詳細は論語語釈「政」を参照。

定州竹簡論語の「正」は、すでに「政」という字があるにもかかわらずもったいを付けた漢儒によるハッタリ。辞書的には論語語釈「正」を参照。

論語:解説・付記

論語の本章は、ひたすら自分の生きる道をずんずん進むことを弟子に教えた孔子らしい発言で、その意味で史実の孔子の肉声だと思いたいのだが、上記の検証通り、「謀」を動詞に使っていることから戦国時代以降の作文と断じる。少なくとも、言葉に手を加えられている。

孔子は、他人を気にかけることを強く弟子に戒めた。

  • 他人の正義に、ケチを付けるんじゃない。ろくなことにならないぞ。(論語為政篇16)
  • 進む道が同じでないなら、互いにはかりごとをするな。(論語衛霊公篇40)

いずれも史実と思われる孔子の発言であり、これは庶民から貴族=君子に成り上がる途上で習練中の、孔子塾生にも当てはまっただろうし、卒業後に孔子の手足として、各国政界に乗り込んでいった弟子たちにも当てはまるだろう。

なお論語の本章に注釈を付けた新古の儒者は、もちろん本章を史実だと疑っていない。ただし特徴として、特筆すべきほど短い。

古注『論語義疏』

子曰不在其位不謀其政也註孔安國曰欲各專一於其職也

孔安国
本文「子曰不在其位不謀其政也」。
注釈。孔安国「それぞれがそれぞれの職に集中することを求めたのである。」

新注も素っ気ない。朱子は何一つ言っていない。

新注『論語集注』

程子曰:「不在其位,則不任其事也,若君大夫問而告者則有矣。」

論語 程伊川
程頤「その地位にいないなら、とりもなおさずその仕事を任せられはしない。もし主君や重役が何か相談したなら、それなら意見を言うことが許される。」

ついでながら康煕帝の政治ショーで、大清帝国公認の無欲な大学者に祭り上げられた焦袁熹は、皇帝のショーにウマを合わせて、論語の本章にこと寄せてこんな事を書いている。

孔子對哀公只云舉直錯枉不説某某當舉某某當錯三桓當如何對景公只云君君臣臣父父子子不説陳氏當如何公子陽生等當如何此不在其位不謀其政之義

論語 清儒
孔子は主君の哀公に対し、「まじめ人間を悪党の長に据えなされ」と説いた(論語為政篇19)。だが具体的に、誰それがまじめ、誰それが悪党だとは言わなかった。三桓=魯国門閥三家老家が悪党であるのは明白だったのに。

また隣国・斉の景公に、「主君は主君らしく、臣下は臣下らしく、父は父らしく、子は子らしく」と説いたが(論語顔淵篇11)、誰の目にも斉国を乗っ取ろうとしているのが明らかだった、陳(=田)一族のことは何も言わなかったし、国公の位を狙っていた公子陽生についても黙っていた。

それはなぜかと言えば、孔子は哀公でも景公でもないから、他人の仕事に口を出さないつもりだったからだ。(『此木軒四書説』巻四)

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。もし長生きしたいなら、悪いことはせぬものだ。それでもやるなら、覚悟致せ。

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コメント

  1. […] もし墓泥棒や紅衛兵による破壊で失われたのではないのなら、前漢宣帝時代の論語には本章が無く、従って論語泰伯編14との重複も無かったことになる。ただし事はこれで終わらない。これが事実なら、以前より架空説が出ていた前漢の儒者、孔安国の実在が疑われるからだ。 […]