論語詳解248郷党篇第十(14)君食を賜はば

論語郷党篇(14)要約:すでにお飾りになっていた諸侯国の殿様ですが、孔子先生は古式に従って敬いました。のちに一度滅びかかった儒教が今日まで残ったのも、当時としては珍しかった忠義を、後世の君主が喜んだからでした。

このページの凡例

論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

君賜食、必正席先嘗之*。君賜腥、必熟*而薦之。君賜生、必畜之。侍食於君、君祭先飯。疾、君視之、東首加朝服、拖*紳。君命召、不俟駕行矣。

校訂

武内本:唐石経嘗の下に之あり。熟を孰に作る。拖を扡に作る。

書き下し

きみじきたまはば、かならせきただしうしてこれむ。きみなまぐさたまはば、かならこれすすむ。きみいけるをたまはば、かならこれふ。きみはべりてくらへば、きみまつればくらふ。やまひあるに、きみこれれば、くびひがしして朝服てうふくくはへ、しんく。きみめいじてせば、くるまたずしてなり

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 孔子別像
殿様が食事を下さる時は、必ず座席を整えてまず一口食べてみる。殿様が生肉を下さる時は、必ず煮て、祖先にお供えした。殿様が生き物を下さる時は、必ず大事に飼った。
殿様と食事を共にする時には、殿様が食物を神霊にお供えすると、その間に手を付けた。
病気をして殿様が見舞いに来れば、枕を東に向けて布団の上に礼服を載せ、帯を伸ばした。
殿様がお召しになると、車の用意が出来る前に出かけた。

意訳

弟子「先生! 殿様から食べ物のお届けです。」
孔子「すぐに座席を整えなさい。拝んでから一口頂こう。」
弟子「先生! 殿様から生肉のお届けです。」
孔子「すぐに煮て、神棚に供えなさい。」
弟子「先生! あのう…」ヒツジ「メェェェ。」
孔子「…大事に飼おう。」

殿様の宴会。
殿「祖先天地の神にお供え申す。かしこみかしこみ…。」
孔子「ムシャムシャ。」
殿「何をしておるのじゃ?」
孔子「毒味でございます。」

孔子、病気中。
弟子「先生、殿様がお見舞いに…。」
孔子「ゴホゴホ。枕を東にしてくれ。それと布団の上に礼服を掛けよ。帯はちゃんと伸ばしてな。」

自宅にて。
弟子「先生! 殿様がお呼びです。」
孔子「あいわかった。いそいそ」
弟子「先生! 車が…まだ用意が…。」
孔子「後から追いついてこい。」

従来訳

論語 下村湖人

君公から料理を賜わると、必ず席を正し、先ず自らそれをいただかれ、あとを家人にわけられる。君公から生肉を賜わると、それを調理して、先ず先祖の霊に供えられる。君公から生きた動物を賜わると、必ずそれを飼っておかれる。君公に陪食を仰せつかると、君公が食前の祭をされている間に、必ず毒味をされる。病気の時、君公の見舞をうけると、東を枕にし、寝具に礼服をかけ、その上に束帯をおかれる。君公のお召しがあると、車馬の用意をまたないでお出かけになる。

下村湖人『現代訳論語』

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

嘗(ショウ)

論語 嘗 金文 論語 味見 嘗
(金文)

論語の本章では”ちょっと食べてみる”こと。

腥(セイ)

論語 腥 金文大篆 論語 生肉 腥
(金文)

論語の本章では”なまぐさもの”、生肉。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、「肉+(音符)星(ちかちか光るほし、刺激がするどい)」。醒(セイ)(つんと刺激されてさめる)と同系のことば、という。

論語 熟 金文大篆 論語 焼き肉 熟
(金文)

論語の本章では”実る”ではなく”煮る”。下にれっかのついた漢字は、火と関わりがある。

『学研漢和大字典』によると会意文字で、享は、郭の字の左側の部分で、南北に通じた城郭の形。つき通る意を含む。熟の左上は、享の字の下部に羊印を加えた会意文字で、羊肉にしんを通すことを示す。

熟は丸(人が手で動作するさま。動詞の記号)と火を加えた字で、しんに通るまで柔らかくにること。毒(くたくたに柔らかくなった物)・粥(シュク)(しんが柔らかくなったおかゆ)と同系のことば、という。

薦(セン)

論語 薦 金文 論語 おせち 薦
(金文)

論語の本章では”お供えする・食べるよう促す”。

『学研漢和大字典』によると会意文字で、「艸+煮(チ)(牛に似ていて角が一本の獣)」で、煮が食うというきちんとそろった草を示す。揃(セン)(そろえる)・前(出した足に、もう一方の足をそろえてまえへ出る)と同系のことば、という。

論語 畜 金文 論語 農家 畜
(金文)

論語の本章では”飼う”。

『学研漢和大字典』によると会意文字で、畜は「玄(黒い)+田」で、栄養分をたくわえて作物をやしない育てる黒い土のこと。

キク・チクの両音があり、キクの場合は好hog→hau(たいせつにかばう)・胸(キュウ)hiog→hiəu(かばって飼い育てる動物)などと同系。チクの場合は守thiog・ʃɪəu(かこって手もとにおく)・収(かこって手もとにおく)と同系。とくに、畜・蓄(たくわえておく)の意味は、非常に近い、という。

君祭、先飯

論語 祭 金文 論語 飯 金文大篆
「祭」「飯」(金文)

論語の本章では、”殿様が食事を前に、「いただきます」の挨拶をしている最中に手を付けること”。毒味の意味がある。

『学研漢和大字典』によると「祭」は会意文字で、「肉+又(手)+示(祭壇)」。肉のけがれを清めて供えることをあらわす。擦(よごれをこすりとる)・察(よごれをとってよく見る)などと同系。類義語の祀(シ)は、つつしんで人為をこらし、神のきげんをうかがうこと、という。

「飯」は会意兼形声文字で、「食+(音符)反(ばらばらになる→ふやける、ふくれる)」で、粒がふやけてばらばらに煮えた玄米のめし。播(ばらまく)・販(商品をひろげて売る)と同系のことば、という。

東首

論語 東 金文 論語 首 金文
(金文)

論語の本章では”枕を東にして東西に寝ること”。そうすると殿様は君主らしく、北から南向きに見舞うことが出来る。

『学研漢和大字典』によると「東」は象形文字で、中にしん棒を通し、両端をしばった袋の形を描いたもの。「木+日」の会意文字とみる旧説は誤り。嚢(ノウ)(ふくろ)の上部と同じ。太陽が地平線をとおしてつきぬけて出る方角。「白虎通」五行篇に、「東方者動方也」とある。

トウとは、通(とおす)・棟(屋根をとおすむな木)・動(上下につきぬけてうごく)などと同系のことば、という。

「首」は象形文字で、頭髪のはえた頭部全体を描いたもの。抽(チュウ)(ぬけ出る)と同系で、胴体から抜け出たくび。また、道(頭をむけて進む)の字の音符となる、という。

拖(タ)

論語 拖 金文大篆 
(金文)

論語の本章では”引く・伸ばす”。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、它(タ)は、長く伸びてからだをひきずるへびを描いた象形文字。甚は「手+(音符)它」。舵(ダ)(横にひっぱるかじ)・駝(ダ)(荷をひっぱる馬)・移(イ)(横にずるずるひいてうつす)などと同系のことば、という。

論語 紳 金文大篆
(金文)

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、申の甲骨文字はのびていく稲妻を描いた象形文字。ただし篆文(テンブン)は「遶(両手)+┃印(まっすぐ)」の会意文字で、手でまっすぐにのばすことを示す。紳は「糸(ひも)+(音符)申」で、からだをまっすぐのばすおび。

伸(のびる、のばす)と同系のことば、という。

駕(ガ)

論語 駕 金文大篆
(金文)

論語の本章では”車”。

語義としては”かご”だが、論語の時代に限らず漢文では、車や舟を含め、乗り物全般をこの言葉で表す。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、「馬+(音符)加(上にのせる、上にのる)」。馬にくびきをのせて、車のながえをのせかけること。加・架(上にかけわたす)と同系のことば、という。

論語:解説・付記

論語の時代、君主が家臣に食物を送る例はよくあり、『孔子家語』によると孔子の息子・が生まれた際、殿様の昭公は孔子にコイを送ったという。また祭礼のお下がりを家臣に分け与えるのは礼法だったようで、孔子は仕えた定公が祭肉を下賜しなかったので亡命を決意した。

つまり国公が祖先をまつり、そのお下がりを受けることが家臣の証しであり、家臣団の一員であることは、主君の祭祀に共同で参加することだった。そこから外されたというのは一種のいじめだが、象徴的には爵位や勲章を剥奪されたような意味がある。

論語 大山巌元帥
大山巌元帥

英語で勲章のことをorderと言い、階級や身分をも意味するが、君主が勲章を授けるのは、家臣団(騎士団)の一員として認めることを意味する。見た目はmedal(記念章)と似てはいるが意義には重大な違いがあり、家臣でなくともmedalは授与されるが特権は通常伴わない。

無論、儀礼として外国元首や著名人にorderを授けることはある。論語の時代の祭祀にはorderと同じ意味があり、祭肉を分け与えないのは「もうお前は家臣ではない」と言ったに等しい。ただし、孔子に分け与えないようにしたのは門閥家老筆頭の季氏ということになっている。

しかし黙認した定公の意志でもあり、孔子の受けた衝撃は重大だったに違いない。

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶった○る。覚悟致せ。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

関連記事(一部広告含む)