論語詳解238郷党篇第十(3)君召して擯せしむる*

論語郷党篇(3)要約:郷党篇にふさわしい愚劣な一節。孔子先生は殿様に呼ばれると、嬉しそうに仕え、お客の接待を命じられると、粗相の無いようにもてなして、最後まで見送って殿様に報告しましたとさ、という作り話。

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論語:原文・書き下し →項目を読み飛ばす

原文

君召使擯、色勃如也、足躩如也。揖所與立左右手。衣前後襜如也。趨進翼如也。賓退必復命曰、「賓不顧矣。」

復元白文

君 金文召 金文使 金文擯 甲骨文 色 金文孛 金文如 金文也 金文 足 金文如 金文也 金文 所 金文与 金文立 金文 左 金文右 金文手 金文 衣 金文前 金文後 金文 如 金文也 金文  趨 金文進 金文 翼 金文如 金文也 金文 賓 金文退 金文 必 金文復 金文命 金文 曰 金文 賓 金文不 金文已 矣金文

※擯→(甲骨文)・勃→孛・矣→已。論語の本章は赤字が論語の時代に存在しない。本章は漢帝国の儒者による捏造である。

書き下し

きみしてあへ使むれば、いろ勃如ぼつじよたりあし躩如きやくじよたりともところをがみて左右さいうにす。ころも前後ぜんご襜如せんじよたりはしすすまば翼如よくじよたりひん退しりぞかばかなら復命ふくめいしていはく、ひんかへりみざるなりと。

論語:現代日本語訳 →項目を読み飛ばす

逐語訳

論語 孔子 肖像
殿様が先生を召して、賓客の接待を命じると、顔色が生き生きし、足は勇み立った。同僚に挨拶する時は、手を左右に広げたが、衣の前後は揃って垂れた。小走りして進む時は両肘を張り出した。賓客が帰ったら必ず殿様に報告して「お客様は後ろを見ませんでした」と言った。

意訳

同上

従来訳

論語 下村湖人

君公に召されて国賓の接待を仰せつけられると、顔色が変るほど緊張され、足がすくむほど慎まれる。そして同役の人々にあいさつされるため、左右を向いて拱いた手を上下されるが、その場合、衣の裾の前後がきちんと合っていて、寸分もみだれることがない。国賓の先導をなされる時には、小走りにお進みになり、両袖を鳥の翼のようにお張りになる。そして国賓退出の後には、必ず君公に復命していわれる。――
「国賓はご満足のご様子でお帰りになりました。」

下村湖人『現代訳論語』

現代中国での解釈例

國君召孔子去接待來賓,孔子表情莊重,腳步迅速;與兩旁的人作揖,左右拱手,衣服前後擺動,很整齊;快速向前時,步伐輕快;來賓走後,必定回報說:「客人走遠了。」

中国哲学書電子化計画

国君が孔子を呼んで来客の接待を命じると、孔子は表情を重々しくし、小走りした。両隣の人とお辞儀するには、左右の手をこまねき、衣服の前後を並んで動かし、非常に端正だった。素早く進むとき、歩みは軽快で、来客が去った後、必ず報告した。「客人は遠くに去りました。」

論語:語釈 →項目を読み飛ばす

擯(ヒン)

論語 擯 金文大篆 論語 行列 擯
(金文大篆)

論語の本章では”接待する”こと。論語では本章のみに登場。初出は甲骨文。金文までは「賓」と書き分けない。カールグレン上古音はpi̯ĕn(去)。音は「賓」(平)と同じ。論語語釈「賓」も参照。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、賓(=賓)の原字は「宀(やね)+豕(ぶた)」からなる会意文字で、家畜をびっしりと小屋に閉じこめたさま。閉・秘(ヒ)(閉じこめる)と同系。のち主人にぴったりとよりそう客を示す。擯は「手+(音符)賓」で、ひしひしと身を寄せて押し出すこと。濱(=浜。ひたひたと水にくっついた水ぎわ)・瀕(ヒン)(ぎりぎり)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「擯」を参照。

色勃如

論語 勃 金文大篆 論語 起きる 勃
「勃」(金文大篆)

論語の本章では、”顔色がそそり立つように生き生きすること”。

「勃」の初出は前漢の篆書。論語の時代に存在しない。論語では郷党篇のみで登場。カールグレン上古音はbʰwət(入)。同音に孛”顔色が変わる”とそれを部品とした悖、浡”起こる”、誖”乱す”、それに艴”気色ばむ”。孛の字は甲骨文から存在し、論語時代の置換候補。「ボツ」は慣用音。呉音は「ボチ」。孛も参照

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、孛(ボツ)は、「屮(草の芽)+八印(両方に押し開く)+子」で、芽や子どもがむっくりと障害を押し開いて頭を出す意を示す会意文字。勃は「力+(音符)孛」で、力をこめておこる意、という。詳細は論語語釈「勃」を参照。

躩(キャク)如

論語 躩 篆書 論語 阿波踊り 躩
(篆書)

「躩」は多義だが、論語の本章では”おどる”こと。足が踊るように浮き足立つこと。論語では郷党篇のみに登場。

初出は後漢の説文解字。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はki̯wak(入)。同音に矍”驚き見る・はやる”とそれを部品とした玃”おおざる・手で打つ”、攫”つかむ・うつ”(”さらう”は国義)。矍の初出も楚系戦国文字であり、論語の時代に存在しない。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、「足+(音符)矍(カク)(かこんでつかむ)」。攫(カク)(手でつかむ)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「躩」を参照。

所與(与)立

論語 所 金文 論語 二人羽織 与
「所」(金文)

論語の本章では、立つ場所を同じにする人=同僚、と古来解する。この場合の「与」の語法は次の通り。

  1. 「ともに」とよみ、「いっしょに」「つれだって」と訳す。従属の意を示す。「不欲与争列=与(とも)に列を争ふを欲せず」〈(廉頗と)二人で席次を争う機会を避けた〉〔史記・廉頗藺相如〕
  2. 「~と」とよみ、「~と」と訳す。対象の意を示す。「与朋友交=朋友と交はる」〈朋友と交わる〉〔論語・学而〕
  3. 「~と…と」とよみ、「~と…と」と訳す。並列の意を示す。「富与貴、是人之所欲也=富と貴きとは、これ人の欲する所なり」〈富と貴い身分とは、誰もが得たいと思うものだ〉〔論語・里仁〕

「所」について詳細は論語語釈「所」を参照。

揖(ユウ)

論語 揖 金文大篆 論語 揖 拝礼
(金文大篆)

論語の本章では、”両手を胸の前で組むお辞儀”。詳細は論語語釈「揖」を参照。

衣前後、襜(セン)如也

論語 襜 篆書 論語 そうめん 襜
「襜」(篆書)

「襜」は”前掛け”。武内本は「襜如はゆれる貌」というが、根拠が不明。論語では本章のみに登場。

初出は前漢の隷書。論語の時代に存在しない。カールグレン上古音はȶʰi̯am(平)。同音に幨”とばり”、裧”車の垂れぎぬ・ひざかけ”。裧が語義を経于有するが、古文からしか見つかっておらず、初出が確定できない。部品の詹tɕi̯am(平)の初出も戦国文字であり、語義を共有しない。

お辞儀をしても衣の裾が乱れないというのは、下半身はどっしりとして余計な動きをせず、上半身が自由に動いたことを想像させる。中国武術で言う「上虚下実」で、ここでも孔子が武術の達人だったことを思わせる。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、「衣+(音符)詹(セン)(上からたらす)」。檐(エン)(上からたれた軒)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「襜」を参照。

論語時代の貴族の衣服は、ワンピースの長いもので、帯を締め、裳裾(スカート)や幅の狭い前掛けを腰に巻き、頭には冠をかぶる。なお座るには床の上に座布団を敷き、椅子とテーブルの生活が入ってくるのは、漢が滅び遊牧民が大量に流入した、五胡十六国時代より後のこと。

論語 五経図彙 衣衿帯 論語 五経図彙 裳

男がスカートをはかなくなったのは、最後の王朝・清朝からで、満州服が中国に取り入れられた。いわゆるチャイナドレス。また論語時代より後になると、儒者と道士以外はワンピースではなくツゥピースを着るようになり、スカートは必需品になった。

論語 雍正帝

趨(スウ)進

論語 趨 金文 論語 走る 趨
「趨」(金文)

論語の本章では、”小走りする”。貴人の前では小走りするのが礼法の定めだった。詳細は論語語釈「趨」を参照。

翼如

論語 翼 金文 論語 とんび 翼
「翼」(金文)

論語の本章では”翼のように”。武内本は「つつしむ貌」というが、根拠が不明。論語では郷党篇のみに登場。

「翼」の初出は甲骨文。カールグレン上古音はgi̯ək(入)。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、原字は、つばさを描いた象形文字。のちそれに立をそえて、つばさをたてることを示す。翊(ヨク)(つばさ)はその系統を引く字。翼は「羽+(音符)異(イ)」で、一つのほかにもう一つ別のがあるつばさ。翌(もう一つ別の日)・異(もう一つ別の)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「翼」を参照。

復命

論語 復 金文 論語 命 金文
(金文)

論語の本章では、”命じられた仕事の顛末を報告すること”。

賓不顧矣

論語 賓 金文大篆 論語 顧 金文

「賓」「顧」(金文)

論語の本章では、”お客様は振り返りませんでした”。”満足して帰った”と古来解する。

『学研漢和大字典』によると「賓」は会意兼形声文字で、もと「宀(やね)+ぶた」の会意文字で、小屋の中に豚を並べて入れたさまを示す。くっつく、並ぶの意を含む。賓はその下に貝(財貨)をそえたもの。礼物をもって来て、主人と並ぶ客をあらわす。濱(ヒン)(=浜。水にすれすれにくっついたはまべ)・頻(ヒン)(すれすれにくっつく)などと同系のことば、という。

「顧」の初出は戦国末期の金文。論語の時代に存在しない。論語では郷党篇のみに登場。カールグレン上古音はko(去)で、同音は膨大に存在する。日本語音で同音同義なのは、𪄮(上古音不明)の字の仮借。雇ɡʰo(上)の異体字とされ、雇は甲骨文から存在する。ただし語義は”フナシウズラ(ハトの一種)”であり、”やとう・むくいる”。古くは”かえりみる”の語義があった可能性はあるが、断定できない。さらに「後顧の意とするのは、のちの転義である」と字通は言う。

『学研漢和大字典』によると会意兼形声文字で、雇(コ)は、わくをかまえて、その中に鳥や動物をかかえこむこと。顧は「頁(あたま)+(音符)雇」で、せまいわくをかぎって、その中で頭をめぐらすこと。僱(コ)(かかえこむ→やとう)と同系のことば、という。詳細は論語語釈「顧」を参照。

「矣」は完了で、”とうとう振り返らないまま行ってしまった﹅﹅﹅﹅﹅”という語気を表す。詳細は論語語釈「矣」を参照。

論語:解説・付記

後の統一帝国時代とは異なり、論語の時代は史書に記述があるだけでも毎年のように使者が往来し、その接待は国の行く末を左右しかねない大事な仕事だった。家老格である孔子が接待を務めるとなると、相手もそれ相応の高い身分であり、会話には巧みに『詩経』の一説を引用するなどして、高度な教養が求められた。

この点孔子はうってつけだったろう。

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。もし長生きしたいなら、悪いことはせぬものだ。それでもやるなら、覚悟致せ。

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