『史記』現代語訳:仲尼弟子列伝(8)子貢C

論語時代史料:『史記』原文-書き下し-現代日本語訳

端木賜子貢(たんぼくし・しこう)その三

說曰:「臣聞之,王者不絕世,霸者無彊敵,千鈞之重加銖兩而移。今以萬乘之齊而私千乘之魯,與吳爭彊,竊為王危之。且夫救魯,顯名也;伐齊,大利也。以撫泗上諸侯,誅暴齊以服彊晉,利莫大焉。名存亡魯,實困彊齊。智者不疑也。」
説きて曰く、「臣、之を聞く、王者は世を絶たず、覇者は敵を彊くする無し、と。千鈞の重きも銖両を加えて移る。今、萬乗の斉を以てして千乗の魯を私し、呉と彊きを争わんとす。窃かに王の為に之を危ぶむ。且つ夫れ魯を救うは、顕名なり。斉を伐つは、大利なり。以て泗上の諸侯を撫し、暴斉を誅し、以て彊晋を服せんこと、利、焉れよりも大なるは莫し。名は亡魯を存し、実は彊斉を困しむるなり。智者は疑わざるなり。」

斉を出た子貢は、呉に向かい呉王に説いた。
「私めが聞きますに、王者は他国を滅ぼすようなことをせず、覇者は敵を強くするようなことをしないといいます。千鈞の重さで釣り合っていても、たった銖両を片方に加えれば天秤は傾きます。

ところが今、戦車万乗の斉国が、千乗の魯国を攻め潰そうとしています。釣り合うどころの話ではありません。私は王のために、この事態を心配しています。その上ここで魯を救えば、大王の名は天下に轟き、斉を討伐すれば、ごっそり土地と戦利品を得られます。

魯国と同じ泗水のほとりに居並ぶ諸国を助けて安心させ、暴虐な斉を懲らしめ、その勢いで強国・晋を征服すれば、これ以上の利益はないと言っていいでしょう。大義名分は魯の救済ですが、実は邪魔な強国の斉を弱らせ、大王の覇業達成の助けになるのです。賢明な大王にはおわかりでしょう。」

吳王曰:「善。雖然,吾嘗與越戰,棲之會稽。越王苦身養士,有報我心。子待我伐越而聽子。」子貢曰:「越之勁不過魯,吳之彊不過齊,王置齊而伐越,則齊已平魯矣。且王方以存亡繼絕為名,夫伐小越而畏彊齊,非勇也。夫勇者不避難,仁者不窮約,智者不失時,王者不絕世,以立其義。今存越示諸侯以仁,救魯伐齊,威加晉國,諸侯必相率而朝吳,霸業成矣。且王必惡越,臣請東見越王,令出兵以從,此實空越,名從諸侯以伐也。」吳王大說,乃使子貢之越。
呉王曰く、「善し、然ると雖も、吾、嘗て越と戦い、之を会稽に棲ましむ。越王、身を苦しめ士を養い、我に報ゆるの心有り。子、我が越を伐つを待て、而して子に聴かん。」子貢曰く、「越の勁きは魯に過ぎず、呉の彊きは斉に過ぎず。王、斉を置きて越を伐たば、則ち斉已に魯を平らげん。且つ王方に亡を存し絶を継ぐを以て名を為さんとするに、夫れ小越を伐ちて彊斉を畏るるは、勇に非ざるなり。夫れ勇者は難を避けず、仁者は窮約せず(貧困にはならない)、智者は時を失わず、王者は世を絶たず、以て其の義を立つ。今、越を存し以て諸侯に示すに仁を以てし、魯を救い斉を伐ち、威を晋国に加えば、諸侯必ず相い率いて呉に朝し、覇業は成らん。且(も)し王必ず越を悪まば、臣請う、東して越王に見え、兵を出だし以て従わしめん。此れ実は越を空しくし、名は諸侯に従い以て伐つなり。」呉王大いに説ぶ、乃ち子貢をして越に之かしむ。

呉王夫差「よろしい。だが私は以前越国と戦かって勝ち、その国王勾践以下を会稽に住まわせている。勾践めは自ら苦労して兵士を養い、私に仇討ちしようと狙っている。そなたは少し待つがいい。越を滅ぼしたらその後で、そなたの計略に随おう。」

子貢「越は魯ほど強くはありません。呉の強さは斉ほどではありません。大王が斉を放置して越と戦えば、その頃には魯は斉に滅ぼされています。しかも大王は覇者として、滅びかかった国を救って名声を上げようとしているのに、ちっぽけな越を弱い者いじめして、斉を怖がるというのなら、意気地なしと笑い者になりますぞ。

そもそも勇者は困難を避けず、仁者は困窮せぬものです。智者は時期を見逃さず、王者は小国を見捨てません。それでその正義が保証されるのです。今、越を放置しても諸侯からは仁者だと褒めそやされ、魯を救い斉を伐ち、大王の武威を晋国に加えれば、諸侯は争って大王の元へ挨拶に訪れ、覇業は達成されましょう。

もしそれでも越が憎たらしいと仰るなら、私が越に出向いて説得し、越王に兵を出させて呉軍を助けさせましょう。そうなれば越の兵を空っぽにすると言う実利が得られ、大義名分としては諸侯と同盟して堂々と斉・晋を伐つことになりましょう。」

呉王は大いに喜んで、そこで子貢を越に行かせた。

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