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『史記』現代語訳:仲尼弟子列伝(7)子貢B

論語時代史料:『史記』原文-書き下し-現代日本語訳

端木賜子貢(たんぼくし・しこう)その二

田常欲作亂於齊,憚高、國、鮑、晏,故移其兵欲以伐魯。孔子聞之,謂門弟子曰:「夫魯,墳墓所處,父母之國,國危如此,二三子何為莫出?」子路請出,孔子止之。子張、子石請行,孔子弗許。子貢請行,孔子許之,遂行。
田常、斉に乱を作さんと欲し、高・国・鮑・晏を憚る。故に其の兵を移し以て魯を伐たんと欲す。孔子、之を聞き、門弟子に謂いて曰く、「夫れ魯は墳墓の處る所にして、父母の国なり、国の危きこと此くの如し、二三子、何為れぞ出づる莫からん。」子路、出づるを請う。孔子、之を止む。子張・子石、行くを請う。孔子、許さず。子貢、行くを請う。孔子、之を許す。遂に行く。

斉の家老田常が反乱を起こし、国君に取って代わろうとしたが、門閥の高・国・鮑・晏氏を警戒して、実行できなかった。そこで動員した兵の向きを変えて、魯を攻撃しようとした。

魯の国外にいた孔子は知らせを聞いて、弟子一同に言った。
「そもそも魯国は、我が祖先の墓がある所で、父母の国だ。ところがその国に、このような危機が迫っている。誰か、行って何とかする者はいないか。」

子路「はい! 私が。」孔子「ダメじゃ(お前が行くともっと無茶苦茶になる)。」
子張・子石「では私らが…。」孔子「ダメじゃ(まだまだ小僧ではないか)。」
子貢「それではここは、私ということで。」孔子「よろしい。」
子貢は早速一行の元を去った。

 

至齊,說田常曰:「君之伐魯過矣。夫魯,難伐之國,其城薄以卑,其地狹以泄,其君愚而不仁,大臣偽而無用,其士民又惡甲兵之事,此不可與戰。君不如伐吳。夫吳,城高以厚,地廣以深,甲堅以新,士選以飽,重器精兵盡在其中,又使明大夫守之,此易伐也。」
斉に至り、田常に説いて曰く、「君の魯を伐つは過てり。夫れ魯は、伐ち難きの国なり。其の城は薄くして以て卑(ひく)く、其の地(いけ)は狭くして以て泄(あさ)く、其の君は愚にして不仁、大臣は偽りて要無し、其の士民、又甲兵の事を悪む、此れ與に戦う可からず。君、呉を伐つに如かず。夫れ呉は、城高くして以て厚く、地は広くして以て深く、甲は堅にして以て新たに、士は選にして以て飽く。重器精兵尽く其の中に在り、又明大夫をして之を守らしむ。此れ伐ち易きなり。」

子貢は斉に着いて、田常に説いた。
「あなたが魯を伐つのは間違いです。そもそも魯は、伐ち難い国です。その城壁は薄くて低く、掘り割りは狭くて浅い。君主は愚か者で人でなし、大臣はウソツキで能がない。武人も平民もいくさが嫌いで、それを相手に戦ってはいけません。あなたは呉を伐った方が得です。

そもそも呉は、城は高いし城壁も厚く、掘り割りは広くて深く、鎧は堅いし新品同然、武人は選りすぐりで給与もいい。財宝もどっさり持ってますし、精鋭部隊が城内で待ちかねています。その上賢臣が国を治めている。これは打ち破りやすいですな。」

 

田常忿然作色曰:「子之所難,人之所易;子之所易,人之所難:而以教常,何也?」子貢曰:「臣聞之,憂在內者攻彊,憂在外者攻弱。今君憂在內。吾聞君三封而三不成者,大臣有不聽者也。今君破魯以廣齊,戰勝以驕主,破國以尊臣,而君之功不與焉,則交日疏於主。是君上驕主心,下恣群臣,求以成大事,難矣。夫上驕則恣,臣驕則爭,是君上與主有卻,下與大臣交爭也。如此,則君之立於齊危矣。故曰不如伐吳。伐吳不勝,民人外死,大臣內空,是君上無彊臣之敵,下無民人之過,孤主制齊者唯君也。」
田常、忿然として色を作して曰く、「子の難しとする所は、人の易しとする所、子の易しとする所は、人の難しとする所なり。而るに以て常に教うるは、何ぞや。」子貢曰く、「臣、之を聞く、憂い内に在る者は彊きを攻め、憂い外に在る者は弱きを攻む、と。今、君、憂い内に在り。吾聞く、君三たび封ぜられんとして三たび成らざるは、大臣に聴かざる者有ればなり、と。今、君、魯を破り以て斉を広くせんとす。戦い勝ち以て主を驕らせ、国を破り以て臣を尊くし、而して君の功、焉に與らず。則ち日を交(こもごも)して主に疏からん。是れ君、上は主の心を驕らし、下は群臣を恣にせしむるなり。以て大事を成すを求むるは、難し。夫れ上驕れば則ち恣に、臣驕れば則ち争う、是れ君、上は主と郤有り、下は大臣と交々争う。此くの如くなれば、則ち君の斉に立つこと危からん。故に曰う、呉を伐つに如かず、と。呉を伐ちて勝たずんば、民人は外に死し、大臣は内に空しからん。是れ君、上は彊臣の敵無く、下は民人の過め無し、主は孤たりて、斉を制する者は唯君のみなり。」

田常は真っ赤になって怒った。
「でたらめ言うな。ボロ城、バカ殿、いくさ嫌いで、何が撃ちがたいだ。世間じゃ逆だと言ってるぞ。」

子貢「おーやまー、そーでしたか。私の聞いたのは違いますね。身内に不安がある者は、強敵を攻め、外に不安がある者は、弱敵を攻めると。あなたは国内に、遠慮せねばならない門閥がいる。あなたは三度も国君の地位を狙って、三度ともしくじった。つまりは門閥に邪魔をされたのです。

今あなたは魯を攻めて、斉を広げようとなさっている。もし勝っても今の国君を威張らせるだけで、魯国討伐の栄誉は門閥に行き、あなたに何の得もありません。時間が過ぎれば過ぎるほど、国君との関係が悪くなるだけです。そうなればあなたは、国君にはバカにされ、門閥どもには好き勝手されることになります。国盗りはますます遠ざかるでしょうなあ。

そもそも主君が思い上がれば身勝手になり、家臣が思い上がれば内輪もめを始めます。そうなればあなたは今の国君とは気まずくなり、家臣とは一々ケンカをせねばならなくなります。間違いなく斉に居づらくなりましょうなあ。だから言ったのです、呉を伐った方がいいと。

呉を伐って勝てなければ、徴兵された民衆は国外で戦死し、大臣は領民がいなくなってしまいます。そうなるとあなたは、朝廷では落ちぶれた大臣を前に敵なしですし、民衆からは怨まれずに済みます。今の国君は孤立し、斉国を制覇するのはあなただけになりますぞ?」

 

田常曰:「善。雖然,吾兵業已加魯矣,去而之吳,大臣疑我,柰何?」子貢曰:「君按兵無伐,臣請往使吳王,令之救魯而伐齊,君因以兵迎之。」田常許之,使子貢南見吳王。
田常曰く、「善し、然ると雖も、吾が兵業(すでに)已に魯に加う。去りて呉に之かば、大臣、吾を疑わん。奈何せん。」子貢曰く、「君、兵を按じて伐つ無かれ。臣請う、往きて使いして、之をして魯を救い斉を伐たしめん。君因りて兵を以て之を迎えよ。」田常、之を許し、子貢をして南して呉王に見えしむ。

田常「よかろう、だがすでに、我が軍勢は魯に向かっている。それを急に向きを変えたら、斉の大臣が私を疑う。どうすればいいか。」

子貢「それならあなたが出向いていって、軍の進行を抑え、開戦を引き延ばして下さい。私が呉に出向いて、魯への援軍を引き出させて斉を伐たせましょう。ですからくれぐれも、兵を押さえて動かさないで下さいよ。」

田常はその提案を受け入れ、子貢を呉に使わして呉王と会見させた。

『史記』仲尼弟子列伝・貨殖列伝:現代語訳
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