論語泰伯篇:要約
アルファー:こんにちは! ナビゲーターAIのアルファーです。
孔子:解説の孔子じゃ。
アルファー:論語泰伯篇はどんなお話なんですか?
孔子:うむ。冒頭から前半が、ワシが呉国の使節を接待した時の実況中継じゃ。当時の呉国は日の出の勢いでの、ワシは取り込んで呉王・夫差を理想の覇者に仕立てようとした。
アルファー:へ~え。それって黒幕になろうとした、ってことですよね。
孔子:善導してやったと言って貰おうか。この工作はうまく行き、呉王は覇者となったのじゃが、留守を越国に攻められての。あっという間に没落してしもうた。
アルファー:あらら…。
孔子:それで世は越国の天下じゃ。論語を編纂した弟子たちは、急遽わが孔子一門と呉国との関係をくらまさにゃあならんくなった。
じゃから現行の泰伯篇は、意図的に曽子の言葉を多数挟んで、章を分断して関係を分かりづらくしたのじゃ。ここでは整理して、分かりやすくしてあるぞ!
アルファー:政治って大変なんですねえ。ともかく始めましょうか。
1
今や日の出の勢いの南方の新興国、呉から使者が来た。味方につけずばなるまい、だから話をこう切り出した。
「さても貴国開祖の泰伯さまは、古今東西並ぶ者無き、人徳を極めたおん方でござる。三度天下の権を正しき者に譲り、その事実を宣伝なさらず、民にさえ知らせたまわなかった。」
アルファー:せんせ~い。「巧言令色」はいけない、とか言っておきながら、さんざんおべっか使ってるじゃないですか。
孔子:当たり前じゃ! 政治工作のためならかまわんかまわん。
2
礼でござるか?
ここ中原諸国では、前もって礼のコードは知っておきなされ。
知らないでへりくだっても、やり過ぎてくたびれます。
知らないで慎ましくしても、やり過ぎてくたびれます。
知らないで勇ましくしても、乱暴者扱いされます。
知らないで義理を通しても、そのうち行き詰まります。
政治でござるか?
貴族が身内を大事にすれば、民は見習って一斉に情けを知ります。
貴族が昔なじみを大事にすれば、民は見習ってハッタリをかまさなくなります。
アルファー:これって、呉国の使節は中華諸国のエチケットに暗かった、ってことですか。
孔子:うむ。伝説では呉国の開祖・泰伯さまは、我が周王朝の分家と言うことになっておるが、そんなの誰も真に受けておらん。実際の呉国人はざんばら髪に入れ墨という、まぎれもない蛮族じゃったからな。
アルファー:へ~え。蛮族はどうあっても蛮族じゃなかったんですか?
孔子:これもまた政治のためじゃ。細かいことは気にせぬことよ。
3
学問でござるか?
まず古曲の歌詞を口ずさむ。
感動して古典や外国語でも始めようかと思う。
加えて礼法を身につけると頭のいい人と言われる。
そこで仕上げに楽器を習えば申し分なくなります。
4
…それと無学な民を従わせることは出来ても、分からせることは出来ませぬぞ。
アルファー:これって論語の名言というか迷言? 「民は由らしむべし、知らしむべからず」ですよね。
孔子:そうじゃ。義務教育が普及しても、政治の何たるかを分かる者は少なかろう? 庶民に教育など無かった論語の時代には、なおさらじゃ。
5
ちょっと中座してきた。
あーあ。
腕っ節自慢が貧しいままだとろくな事がない。
「どいつもこいつも不人情だ」と言い、むしゃくしゃして暴れ回る。
経済政策でも教えてやるかな。でもケチだし欲張りだからな。
先生、欲張りって?
孔子:うむ。呉国は言った通りまだ野蛮じゃったから、我が魯国の哀公さまの七年(BC488)に、魯国の近くまで押し寄せてきての。接待に「百牢」を出せ、と強要したんじゃ。
アルファー:百牢ってなんですか?
孔子:牛、豚、羊の焼き肉セット100人前じゃ。当時の作法では、多くとも12人前しか出さぬ事になっておった。欲張りじゃろう?
アルファー:ケチって?
孔子:うむ。弟子の子貢を呉国に遣わして、対越国の秘策を助けてやったんじゃが、工作に必要な手土産を、呉王は出さなかったのじゃよ。それに比べて越国は、子貢に手土産をたんまりと持たせてやったらしい。子貢の奴は、呉より越の方が見込みがある、と思ったようじゃ。
6
仮に昔の大賢者・周公さまほどの才能があっても、威張り散らしてケチで強欲なら、宰相だろうと国王だろうと、それまでなんだがな。
7
席に戻った。
それがしの塾でござるか? まあ卒業まで十年はかかりましょう。
三年学んだら、さっさと就職していく弟子ばっかしではござるがな。
それでも弟子どもは、なんとか無事、お役目が務まっております。
8
人生のコツでござるか?
義理堅くて学問を好み、命を大切にして技を磨き、滅びかけの国には行かず乱れた国からは出て行く。
まともな世の中なら活躍し、ろくでもない世の中なら隠れる。
自国の政治がまともなのに、出世できないのは恥。
自国の政治がろくでもないのに、出世しているのも恥。
そんなところですかな。
9
他人の仕事に、口出ししたり首を突っ込んだりするんじゃない。
アルファー:他人は放っとけ、って先生良く言ってますよね。
孔子:そうじゃよ。人様のシリを拭いている暇があったら、自分の道に邁進せねばな。そうでないと成功はおぼつかないものじゃて。ただしこの言葉は、後世のでっち上げじゃ。
10
「♪~。」
ほらご覧なさい、ここからが聞き所ですぞ。
楽師の摯どのの演奏は、ミサゴの歌の終わり頃が何ともすばらしい。
11
やれやれ終わった終わった。田舎者はたちが悪い。
すぐカッとなるくせに小ずるい。
幼稚でダサいくせに見栄を張る。
無知なくせにウソをつく。
知らんよ、あんな連中。
弟子「…それはさっき帰った呉の使いのことですか?」「コラあ!」
12
で、あるからして諸君、あの呉国の連中のようなどうしようもない田舎者にならぬためには、ひたすら学ぼうとするしかないのである。
アルファー:ここでお話が先生の塾の日常に戻ったんですね。
孔子:そうじゃ。呉国とのやりとりを踏まえて、人はどうあるべきかを語って締めくくったのじゃ。
13
今日は古記録を読む。
古代の聖天子、舜・禹の政治は、そびえ立つ山脈のようで、口をぽかんと開けて眺めているしかないな。即位の後はほとんど何もしとらんじゃないか。
アルファー:先生、聖天子って何したんですか?
孔子:何もなさっておらん。じゃが世は治まった。
え? そんなのアリですか?
アリと言うしかないんじゃなあ、ワシにとっては。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を読んでくれい。
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今日も古記録を読む。
大したもんだな、堯の政治も。ギザギザとそびえ立つ山脈のようだな。
というか雲を掴むような話で、堯だけができた芸当なんだな。
大洪水と同じで、民はなされるがままボンヤリ見ているしかなかったんだろうな。
う~んギザギザだなあ。天高くそびえてるなあ。
こんなキラリと光る文化を残したんだから。
アルファー:先生、文化を残したって言うのは?
孔子:膨大な礼法の数々や、詩、農耕技術のことじゃな。それと、堯王陛下は天体観測をなさり、カレンダーを作られた。高度な技術と数学無しには、出来ない事じゃぞ。
15
舜は五人の家臣で天下を治めた。
周の開祖・武王陛下は言った。「わしには世を平らげた家臣が十人いる」と。
まったく人材とは得難いものだ。武王陛下の時代は史上最高の治世だが、十人の内一人はお妃さまだから、政治家は九人しかいなかったのだ。
当初は殷に臣従していたとは言え、天下の三分の二を領しても、たったの九人。
それで天下を我がものにしたのだから、周の潜在的国力は圧倒的だったんだな。
アルファー:先生、「余に乱臣十人あり」って、反乱を起こしかねない家臣のことですか?
孔子:いいや。もともと「乱」とは、もつれた糸を整える事じゃ。論語の時代には、もつれた糸の方に意味が移って、乱れるという意味も出回り始めておったが、武王陛下の頃にはそんな意味はない。
アルファー:九人の政治家って誰でしょう?
孔子:う~む、むつかしいな。何せ古い時代のことじゃで、記録が残っておらず、ワシにもはっきりとは分かっておらん。
孔子:後世の馬融くんや朱子くんによると、周公旦(同母弟)、召公奭(同族)、太公望、畢公(異母弟)、榮公(?)、太顛(文王四友)、閎夭(文王四友)、散宜生(文王四友)、南宮适(文王四友)の九人だと想像しておるな。
それと論語の微子篇でも言うたが、周には八人の賢者が居たらしい。九人と数が合わぬが、なにせ古記録の事じゃ。分からぬ事はいっぱいあるのじゃよ。
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禹の政治は文句のつけようがない。
粗末なものを食べて、お供え物に金をかけた。
粗末なものを着て、儀式の礼服に金をかけた。
粗末な宮殿に住んで、治水に金をかけた。
全く文句のつけようがない。
アルファー:先生、治水はわかりますけど、お供え物や礼服が、そんなに大事なんですか?
孔子:うむ。論語の時代は、災害や病気の原因が分かっておらぬでな。天の怒りや亡霊のたたりだと考えたものじゃ。じゃからお供え物は、安全確保のためには意味があったのじゃよ。
それと礼服が格好良ければ、民も異民族も恐れ入って、反乱や侵略を防ぐ効果があった。言わば国防や治安維持に、礼服は欠かせなかったんじゃよ。
アルファー:論語泰伯篇はこれでおしまいです。みなさん、おつかれさまでした。
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