論語季氏篇:要約
こんにちは! ナビゲーターAIのアルファーです。
孔子:解説の孔子じゃ。
さて先生、この論語季氏篇はどんなお話なんですか。
孔子:知らぬ。
アルファー:えっ!
孔子:じゃから知らぬと言っておる。よおく目を見開いて原文を見るとじゃな、「子曰わく」ではのうて、「孔子曰わく」で始まっておるじゃろう? つまりワシが言ったかどうかは定かではないが、おそらく戦国時代あたりの儒者が、ワシが言ったじゃろうと書いた作文じゃ。
(↑戦国時代あたりの儒者・孟子)
アルファー:じゃあ季氏篇は全部ニセモノなんですか?
孔子:そうまでは言うておらぬ。ワシが元ネタとなるようなことを言うた可能性のある話もある。じゃがそれはワシの肉声ではなく、儒者どもが切ったり干したり煮たり焼いたりして、元とはずいぶん違う話に仕立てておる。中にはまるまるウソと分かる話もあるがの。
アルファー:はああ。それじゃ先生としても責任持てませんよね。
孔子:そうじゃ。しかもこの論語季氏篇は、ややこしいことに篇名だけは古い。ほれ、論語八佾篇の冒頭も、「季氏」で始まっておるのに季氏篇とは言わんじゃろう? それはすでに季氏篇が伝わっておったからじゃ。じゃがそれは、季氏篇が古いということにはならぬのじゃ。
アルファー:どういうことです?
孔子:うむ。ここまで話したように、論語季氏篇の成立はどう考えても新しい。古くとも戦国時代じゃろう。ワシが世を去って100年以上も過ぎた頃じゃ。じゃが儒者は、ワシの肉声に近い古い言葉は放置して、自分たちでこしらえた季氏篇の方を、大事に取っておいたのじゃ。
アルファー:またなんでそんなことに。
孔子:ワシが世を去ってすぐ、儒家は衰えて食うにも困っておった。じゃから儒者どもは、ワシをご本尊のカナブツに仕立てて霊感商法を始めたのじゃな。孟子くんが出て儒家は勢いを取り戻したが、その頃にはすでに、この季氏篇のような作文が主に残ったということじゃ。
アルファー:あれま。
孔子:その後の始皇帝陛下による焚書、直後の楚漢戦争、その地獄の中でも儒者が後生大事に抱えておったから、漢の時代、まず季氏篇がワシの言葉として広まったのじゃ。もちろん断片的にその他の言葉も伝わったのじゃが、まとまった篇として季氏篇は目立ったのじゃな。
アルファー:だから季氏篇は、古いけど新しい、ってことなんですね。
孔子:そうじゃ。その後武帝陛下の時代に、あのあやしい古論語が発掘されておらなんだら、論語も儒学も、ずいぶん違ったものになったろうて。その意味では怪しくとも、古論語の功績は大きいということになるのう。
アルファー:そうですよね…それじゃあとりあえず始めましょうか。
1
門閥家老筆頭の季氏が、魯の属国・顓臾を攻め潰そうとした。季氏に仕えている冉有と子路がそれを知らせに来たので、言った。
「冉有よ、顓臾は由緒正しい豪族で、代々魯国の一部だ。討つ必要があるのか?」
「あるじの季氏が望むのです。私どもは反対なのです。」
「冉有、補佐役失格だぞ。飼っていた猛獣が逃げた、宝箱の中身が割れた、それで飼育係や納戸役が、知りませんでした、で済むと思うか。」
「顓臾は季氏の根城、費邑のすぐそばです。今取りつぶさないと後世の憂いになります。」
「こじつけを言うな。土地や人が欲しいんだろう。バカな、為政者は不足より不平等を恐れろ。お互い融通すれば、不安は消える。文化技術が上等なら、黙っていてもまわりの土地や民は寄ってくる。なのにお前らは一体何をしていた。あるじや領民を教えもせず、それでいきなりいくさかね。私は顓臾のために言ってるんじゃないぞ。危ないのは季氏と魯国の方だな。垣根の内側はもう、バラバラに砕けておるわ!」
アルファー:先生の国、魯国って、まわりの大国からいじめられていたんですよね。それなのにこんなことするなんて。
孔子:そうじゃろう? ここに出てきた顓臾ばかりでない。お隣さんの邾国まで、ご家老方は攻め取ってしもうた。これは呉国の怒りを買ってのう。討伐を受けて引き下がることになった。そうまでして国を広めたいのかのう。ワシは無意味な戦争は反対じゃ。
2
天下に道理が通る世では、文化や制度や軍事は、天子が定める。
道理が通らない世では、諸侯が定める。
諸侯が定めるようでは、王朝は十代も過ぎればおしまいだ。
家老が定めるようでは、諸侯は五代も過ぎればおしまいだ。
執事が定めるようでは、家老は三代も過ぎればおしまいだ。
もし天下に道理が通るなら。
政権は家老以下の手に握られない。
庶民が政治を語りはしない。
アルファー:なんだか整っていて意味は分かりやすいのですけど、頭に残らないというか、心に響かないというか…。
孔子:そう、論語季氏篇のほとんどは整理されておる。それはいい事でもあるが、つまらなくすることでもあるのう。そもそも「天子」が政治的宣伝文句じゃ。詳細は論語述而篇34余話「周王朝の図々しさ」を読んでくれい。
3
天の恵みが、わが魯公の手を離れて五代になった。
家老が政治を執るようになって四代になった。
だから門閥三家老家は、いずれ落ちぶれることになるだろう。
アルファー:先生これって、季孫家を執事の陽虎さんが乗っ取ったりした話ですよね。
孔子:あんな奴に「さん」など付けずともよい。季孫家は確かに乗っ取られたが、それも一時の事じゃ。じゃから「衰えてしまった」とワシが言うのはおかしい。もしワシの言葉なら、いずれ衰えるじゃろう、というのろいの言葉じゃ。じゃが、ワシは門閥と別に仲が悪かったわけではない。のろいなど言うわけが無い。
アルファー:それと「禄の公室を離れてより」って、官職や俸禄を与える人事権の事じゃないんですか?
孔子:いんや違う。禄の原義は天の恵みじゃ。もしワシの言葉だとすると、原義により近い方が本当の意味じゃ。
4
付き合うとよい友には三種ある。
剛直、賢明、事情通。
付き合うとダメになる友にも三種ある。
ご機嫌取り、猫なで声、口車。
アルファー:う~ん。そりゃあそうなんでしょうけど、だから何、っていう話ですよね。
孔子:つまらんと思うたか。いつものワシの口ぶりとは全然違うじゃろう? 言葉は整っておる必要は必ずしも無い。言いたい事が猛烈にあって、吹き出してくる言葉にこそ力があるのじゃ。ほれ、「言葉は通じりゃいいんだ」と論語衛霊公篇41で言うたじゃろう?
5
自分にいい事三つ。
礼儀や音楽の稽古、人の良い点を挙げること、賢い友が多いこと。
自分によくない事三つ。
ちやほやされる、怠けてだらける、気楽を楽しむ。
アルファー:やっぱり先生のお説教にしては、ガツンと来るものがありませんねえ。
孔子:話の中身はまともなのじゃがな。ワシの生涯は儒者が望んだような、静かな書斎で当たり障りのないことを読み書きするものではなかったのう。岩を抱いて天に叫ぶような、支離滅裂じゃが魂の煮え立つ人生じゃった。ワシは整った人間ではなかったのじゃよ。
6
主君に仕えるのに、しくじり三つ。
主君が言ったことの尻馬に乗る、これをはしゃぐと言う。
主君が言い出しているのに黙っている、これをだんまりと言う。
主君の顔色も見ないでズケズケ言う、これを向こう見ずという。
ああ、これはお弟子さんたちが危なくならないようにお説教したんですね。
孔子:そうじゃよ。論語の時代の君主というのは、気分次第で家臣を殺す者も、決して珍しくなかったからのう。
7
君子の戒め三つ。
若い頃は性欲に振り回されるから、女に気を付けろ。
壮年になると気力体力が過ぎるから、ケンカに気を付けろ。
老いると気力体力に頼れないから、欲ボケに気を付けろ。
アルファー:これは先生が言ってもおかしくない話ですよね。
孔子:そうじゃな。
8
君子が敬うべきもの三つ。
運命。人格者。哲人の言葉。
凡人は…。
運命の怖さを知らないからバカにする。
人格者を間が抜けているとあなどる。
哲人の言葉を役立たずだと軽んじる。
アルファー:これもありそうですが。
孔子:そうじゃな。向こう見ずは知らないから出来る事じゃ。時にはそうした行動に出る必要もあろうが、自分や他人を不幸せにしかねぬからの。よく知ってから大胆な行動に出るのはよいが、目算のないままに暴走すると失敗が多い。いつも目算が立つわけでもないがの。
9
生まれつき道理を悟っている者は上等。
学んで悟る者はそれに次ぐ。
必要になって学び取る者はそれに次ぐ。
必要になっても学ばないのは、最低だ。
アルファー:先生、「民これを下と為す」って、”民が最低と見る”っていう意味じゃないんですか?
孔子:これは「民→於」の誤字じゃろうなあ。じゃがワシの肉声ではないから、断定は出来んがのう。
10
君子の心がけ九つ。
見る時は、あるがままに。
聞く時は、真意を聞き取る。
顔つきは、おだやかに。
身振りは、へりくだり。
言葉は、偽らず。
仕事は、まじめに。
疑問は、聞きただす。
怒りは、後始末を思う。
利益は、筋を通す。
11
善事には追いかけるように熱中し、悪事には煮え湯のように手を引く。
私はそんな人を確かに見たし、その噂を確かに聞いた。
世を隠れて志を追い求め、まっとうなやり方で自分の道を貫く。
私はその噂を確かに聞いたが、そんな人を見たことがない。
アルファー:先生、「噂に聞いた」って?
孔子:うむ。元々、「聞」は間接的に聞くこと、「聴」は直接聞く事じゃ。しかし論語の時代にはその区別が崩れ始めておってな、この季氏篇がまとめられていただろう戦国時代にはもう区別無しじゃ。もしワシの言葉なら、直接聞いたわけではないから「噂に」というわけじゃ。
12
斉の景公は馬四千頭を飼っていたが、死んでも民は頼もしいと讃えなかった。
伯夷と叔斉は首陽山で飢え死にしたが、民は今になっても賞賛している。
実際に富は万能ではない。他にも大事なものがあると言われるのは、こういうことだな。
アルファー:先生、斉の景公さまって、先生ともゆかりの深い方ですよね。
孔子:そうじゃな。ワシがまだ無名の若い頃、孟孫家のご当主さまのお引き合わせでの。若造のワシに、政治の要点などをお尋ねになった。その後ワシが斉国に一時亡命したとき、雇って下さろうとしたが実現しなんだ。まあ、巡り合わせが悪かったんじゃろうなあ。
13
陳亢(子禽)が孔子の子、伯魚に言った。
「あなたは先生から、何か特別の教えを受けていますか?」
「いいえ。ただこういう事がありました…。」
父が庭にひとりで立っていました。その前を走りすぎようとすると、
「詩を学んだか。」「いいえまだです。」「詩を学ばないとものが言えないぞ。」
そこで詩を自習しました。
別の日も父がひとりで立っていました。その前を走りすぎようとすると、
「礼を学んだか。」「いいえまだです。」「礼を学ばないと人間扱いされないぞ。」
そこで礼を自習しました。
「…この二つでしょうね。」「そうでしたか。それはどうも。」
陳亢は自室に戻って喜んだ。
「一石三鳥だ! 詩を知り礼を知り、そして君子は子に冷たいと知ったぞ!」
アルファー:先生、子禽さんって?
孔子:子貢の門人じゃな。ワシは直に教えておらん。ほれ、論語学而篇で、ワシを政権あさりのみっともないジイさんじゃと言った奴じゃよ。
アルファー:ああ、あの。
孔子:そうじゃ。それとこの話は、論語の名言「庭訓」の語源になった話じゃが、いろいろと理屈に合わぬことが多くての。多分儒者の作文じゃ。
14
あー諸君。今日は国際公用語の第一課じゃな。
殿様の奥方を、殿様は「夫人」と呼び、奥方は「小童」と自称する。
領民は「君夫人」と呼び、外国人も「君夫人」と呼ぶ。
アルファー:先生、なんで急にこんな話が?
孔子:いやー、ワシにも分からん。多分、この論語季氏篇が短いもんじゃから、どこにも入れようのない伝承を、最後にくっつけてふやかしたんじゃろうな。
アルファー:論語季氏篇は以上です。みなさん、おつかれさまでした!
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