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漢文読解メモ「いかん」

日本古語「いかん」は「いかに」”どのように”の撥音便(語中・語尾の音が「ん」化する現象)で、漢語「何如」「如何」の半分しか訳せていない。それが現在に至るまで漢文業界の座敷わらしとして取り憑いてしまった理由は、漢語「何如」「如何」には複数のバージョンもあるので、分類できなかった頭の悪い、漢文利権にしがみついたおじゃる公家やくそ坊主が、全部一緒くたに「いかん」と世間に読ませ、やはり利権を離さない江戸儒者や怠惰な漢学教授が改めなかったのがそもそもの間違いの元。

基本

何如 字解 如何 字解

漢文は、SVO型(SがOにVする)の言語である。ゆえに、

  1. 「何如」=(何)”何が”(如)”そのようであるか”→「いかにあらん」”どうであるか”
  2. 「如何」=(何)”何に”(如)”そのようにするか”→「いかにせん」”どうしようか”

1.「何如」の派生形として、”どうなっているんだ”→「いかんぞ」”どうしてだ”。反問・疑問の意となる。

2.「如何」の派生形として、他人が”どうにかする”場合→「いかんぞ」”どうして(そうするの)だ”。反問・疑問の意となる。

ともに「いかんぞ」と読んで結果的に同義となるが、山頂への登山道が二つあったと諦めて頂きたい。

また先秦両漢の漢文では、「如何」の間に目的語を挟んだ「如之何」の例はあるが、「何如」の挟み「何之如」の例は無い。また「如何」の後ろに目的語「之」を接続した例も無い。『孔子家語』七十二弟子解「子如何之病也」は「子、何之病の如き也」”あなたはどんな病気のようであるのですか→一体何の病気ですか”の意。

以下、藤堂明保『学研漢和大字典』より

一文字系

「いかん」「いかんぞ」「いかでか」とよみ、「どうだろうか」「どのようか」「どうして」と訳す。方法・処置を問う疑問・反語の意を示す。《同義語》奈。「世人那得知其故=世人那(いかん)ぞその故を知る得ん」〈世の人はどうしてその理由を知ることができようか〉〔杜甫・送孔巣父謝病帰遊江東兼呈李白〕
①「いかん」「いかんせん」とよみ、「どのようにするか」と訳す。方法・処置を問う疑問・反語の意を示す。▽「奈何」と多く用いる。「沛公大驚曰、為之奈何=沛公大ひに驚きて曰く、これを為すこと奈何(いかん)せんと」〈沛公はたいへん驚いて、いったいどうしたらよかろうかと言った〉〔史記・項羽〕
②「奈~何」は、「~をいかんせん」とよみ、「~をどうしようか」と訳す。「虞兮虞兮奈若何=虞や虞や若(なんぢ)を奈何(いかん)せん」〈虞よ、虞よ、おまえをどうしたらよいのか〉〔史記・項羽〕
③「奈何」は、「いかんぞ」とよみ、「どうして~か」と訳す。原因・手段を問う疑問・反語の意を示す。「奈何君、去魯国之社稷=奈何(いかん)ぞ君、魯国の社稷(しゃしょく)を去るや」〈どうして君主が、魯の社稷(=国家)から立ち去るのか〉〔春秋公羊伝・昭二五〕▽「如何」「若何」も、「いかんぞ」とよみ、意味・用法ともに同じ。

「何→如」系

何如
{何奈(イカン)・何若(イカン)}事実や状態を問うことば。どうであるか。「貧而無諂、富而無驕、何如=貧しくして諂ふこと無く、富みて驕ること無きは、いかん」〔論語・学而〕
何若
⇒何如。
何奈
⇒何如。
奚若
どのようか。どんなであるか。事実や状態を尋ねる疑問詞。「殺天子之民、其罪奚若=天子の民を殺さば、其の罪はいかん」〔孔子家語・六本〕
曷若
どうであるか。どのようか。《同義語》何若。

「如→何」系

如何
①方法や処置を問うことば。どうしたらよいか。「夜如何其、夜未央=夜はいかん、夜いまだ央ならず」〔詩経・小雅・庭燎〕
②反問の意をあらわすことば。どうして。なんだって。
③問いつめる意をあらわすことば。どういうわけだ。「非鼠如何=鼠に非ずしていかん」〔春秋左氏伝・襄二三〕
云何
疑問をあらわすことば。いかに。如何。
奈何
①疑問・反問の意をあらわすことば。どうして。なぜ。「奈何憂崩墜乎=いかんぞ崩墜を憂へんや」〔列子・天瑞〕
②手段・方法を尋ねるときのことば。どうしたらよいか。「為之奈何=これを為すこといかん」〔史記・項羽〕
若何
①(イカン)内容・状態を問うときのことば。いかが。「其母曰、亦使知之、若何=其の母曰はく、亦たこれを知らしむれば、いかんと」〔春秋左氏伝・僖二四〕
②(イカンゾ)理由を問うときのことば。どうして。「非国家之利也若何従之=国家の利に非ざるやいかんぞこれに従ふ」〔春秋左氏伝・襄二六〕
③(イカンセン)処置・手段を問うときのことば。…をどうしようか。「若四国何=四国をいかんせん」〔春秋左氏伝・襄三〇〕
若為
①内容・状態を問う疑問のことば。どんなふう。
②反問の意をあらわすことば。どのようにして。《類義語》如何。「若為辛苦度残年=若為にしてか辛苦残年を度らん」〔白居易・縛戎人〕
那何
いかに。どのように。《同義語》奈何・如何。
怎生(イカンカ・ソモサン)
{怎麼(ソモ)・什麼生(ソモサン)}《俗語》
①なぜ。どうして。
②どのように。▽「生」は、副詞につく助辞。
作麼生(ソモサン・イカンゾ)
《俗語》
①どうして。どうやって。《同義語》什荏生(ソモサン)。《類義語》作麼(ソモ)。
②どうしたか。どんなか。
若為(イカン・イカニ・イカンゾ)
①内容・状態を問う疑問のことば。どんなふう。
②反問の意をあらわすことば。どのようにして。《類義語》如何。「若為辛苦度残年=若為にしてか辛苦残年を度らん」〔白居易・縛戎人〕
論語語釈
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