- 孔子の陰謀・白公
原文
齊景公問晏子曰:「孔子為人何如?」晏子不對,公又復問,不對。景公曰:「以孔丘語寡人者眾矣,俱以賢人也。今寡人問之,而子不對,何也?」晏子對曰:「嬰不肖,不足以知賢人。雖然,嬰聞所謂賢人者,入人之國必務合其君臣之親,而弭其上下之怨。孔丘之荊,知白公之謀,而奉之以石乞,君身幾滅,而白公僇。嬰聞賢人得上不虛,得下不危,言聽於君必利人,教行下必於上,是以言明而易知也,行明而易1從也,行義可明乎民,謀慮可通乎君臣。今孔丘深慮同謀以奉賊,勞思盡知以行邪,勸下亂上,教臣殺君,非賢人之行也;入人之國而與人之賊,非義之類也;知人不忠,趣之為亂,非仁義之也。逃人而後謀,避人而後言,行義不可明於民,謀慮不可通於君臣,嬰不知孔丘之有異於白公也,是以不對。」景公曰:「嗚乎!貺寡人者眾矣,非夫子,則吾終身不知孔丘之與白公同也。」
書き下し
齊の景公晏子に問いて曰く、「孔子の人と為りや何如」と。晏子對え不、公又た復び問うも、對え不。景公曰く、「孔丘を以て寡人に語る者は眾き矣、俱に以て賢人也とす。今寡人之を問うに、し而子對え不るは、何ぞ也」と。晏子對えて曰く、「嬰不肖にして、以て賢人を知るに足ら不。然りと雖も、嬰の聞く所、謂る賢人なる者は、人之國に入らば必ず其の君臣之親しみを合わすに務め、し而其の上下之怨みを弭(や)ます。孔丘荊に之き、白公之謀を知り、し而之に奉るに石乞を以い、君の身幾(ほ)ぼ滅びなんとし、し而白公僇(ころ)さる。嬰の聞くに、賢人は上を得て虛しから不、下を得て危うから不、言の君於聽かるらば必ず人を利(たす)け、教えの下の行わるらば必ず上に於(いた)す。是れ以て言の明らかにし而知り易き也、行いの明らかにし而從い易き也、義を行うに民乎明らかなる可く、謀り慮りて君臣乎通ず可し。今孔丘、深く慮りて謀を同くするに賊に奉るを以い、勞い思いて知るを盡さんとするに行い邪まなるを以い、下に勸めて上を亂し、臣を教て君を殺さしめるは、賢人之行いに非る也。人之國に入り而人之賊に與するは、義しき之類に非る也。人をりて忠かなら不、之を趣(うなが)して亂を為すは、仁義に之れ非る也。人を逃れ而後に謀り、人を避け而後に言うは、義を行うも民於明らかなる可から不。謀り慮りて君臣於通す可から不。嬰、孔丘之白公於異るところ有るを知ら不る也、是を以て對え不。」景公曰く、「嗚乎、寡人に貺(たま)う者眾き矣、夫子に非ずんば、則ち吾れ身を終うとも孔丘之白公與同じきを知ら不る也。」
現代日本語訳
斉の景公が宰相の晏嬰に問うた。「孔子とはどんな人物か。」晏嬰は答えなかった。重ねて傾向が同じ問いを言った。やはり晏嬰は答えなかった。
景公「ワシに孔子の話をする者は少なくない。みな口を揃えて”賢者です賢人です”という。本当かどうか、そなたなら分かると思って聞いたのに、なぜ黙っておるのじゃ。」
晏嬰「わたくしは愚かで、賢者の何たるかを知りません。ですが賢者とはこういうものだ、と聞いております。
賢者は他国を訪れたなら、必ずその国の君主と臣下を取り持って、仲良くさせるよう努めます。そうやって、どうしようもなく積もってしまう君臣間の心のわだかまりを解きほぐすのです。
ところが孔子は楚へ行き、白公が王位奪取の計画を立てているのを知ると、手下の石乞を白公に付かせて、その結果楚王は暗殺寸前まで身を危うくし、当の白公は殺されてしまいました。
またわたくしは、賢者についてこう聞いております。賢者は地位を得たら必ずその地位にふさわしい仕事をし、地位が無くとも、危なっかしい陰謀などは企てぬものだ、と。だから賢者は隠し事が無く話がはっきりしており、聞いた人によく分かり、行動も人をだますようなことが無く、言う通りに従っても不都合が起こりません。だから立ち居振る舞いが下々にも立派だとわかり、思い巡らすことも君臣ともども受け入れやすいのです。
ところが孔子が今やっている事と言えば、頭から黒煙が上がるほど悪だくみをたくましくし、謀反人に手を貸し、せっかくの脳みそを悪知恵に回して悪事を働き、庶民をたぶらかして反乱をそそのかし、家臣をだまくらかして主君を殺させています。これのどこが賢者でしょうか。
よその国に行って謀反人の手助けをする。正義の味方ではありません。誰かが不平不満を心に抱くと、そそのかして反乱を仕向けます。仁義の人ではありません。人をとろかして何でも白状させ、それを種に悪だくみをする。自分では何もせず、誰かが行動を起こすとそれについてあれこれ批判する。
つまり孔子の言っていることも思っていることも、庶民にはさっぱりわけが分からず、”こうしなされ”と授ける策は、君主や貴族がうっかり受け入れるととんでもない目に遭います。謀反を起こした白公と、孔子は同じ穴のムジナでしょう。だから殿の問いに、黙って答えなかったのです。」
景公「ああ、実にいい話だった。そなたがいなければ、ワシは生涯、孔子が白公みたいな奴じゃとわからぬままじゃったろう。」
コメント