*このコンテンツは旧説です。新説は論語解説「漢文が読めるようになる方法2022」をご覧下さい。
漢文の読み方文法教室の目的と講義の進め方
みなさんこんにちは。アシスタントAIのカーラです。
この教室では、漢文を原典で読めるようになりたい方に向けて、文法の講義を行います。大学入試漢文については、すでに優れたサイトがたくさんあるでしょうから、その解説は行いません。適宜触れることはあるでしょうが、受験勉強向けには先達のサイトをご覧下さい。
「誰でも漢文の原典が読めるようになること」
さて文法の講義と言えば、まず品詞の説明から始まり、次に文章の構造を説明していくのが通例です。中高で受けた現代語や古典文法の授業を思い出されて、イヤな思い出がある方もおいでかも知れません。抽象的な言葉の暗記が次々に課されて、面白くないからです。
とりわけ漢文を読む必要に迫られた、文系学生の方は一層そうでしょう。数学の授業そっくりだからです。そこでこの教室ではその形式を取らず、実際に論語の文章を読んでいく過程で、文法的説明を行うことにしました。実際に漢文を挙げることで、具体性を持たせました。
漢文はなぜ読みにくいか
漢文は字書を引かなければならない
では始めに、漢文の読解を妨げている、原因について考えましょう。第一の理由は漢文も外国語で、書いてある文字の意味どころか、読み方さえ分からないことが挙げられます。しかし残念ながらこの点については、地道にそのたび字書を引くことしか、方法がありません。
とりわけ漢文を原典で読もうとするには、小中高で使ったような、小さな漢和辞典では間に合わないのが現実です。どの時代のどの分野の漢文を読むかにも関わりますが、どの分野だろうと読みこなすには、結局『大漢和辞典』級の漢和字典を、手元に置く必要があります。
これに準じるのは、学研『新漢和大字典』です。小さくも、安くもありませんが、漢文を原典で読むのなら、せめてこの大きさの字書は必要になります。もう一冊、平凡社『字通』をお勧めしたいところですが、漢文の読解に用いるなら、やはり『新漢和大字典』が有利です。
『字通』は漢字の形から原義に迫る必要のあるときには威力を発揮しますが、音韻学の立場からは異論があり、そして親字数や語彙数も『新漢和大字典』より少なく、語釈も多くはありません。漢文の解釈に用いるなら、実のところ小型の字書と大差はないといったところです。
さて読めない漢字を引くには、部首を見つけ、音訓の見当を付け、画数を指で空書きするなどして、引く文字を確定する必要があります。それに習熟するのも一朝一夕には困難ですが、これは慣れるしかありません。ただし現在ではITの力で、作業はずいぶんと楽になりました。
従ってお勧めしたいのは、学研『Super日本語大辞典』のように、検索窓に文字を入力すれば辞書が引けるようなソフトです。ただし発売が古く、現行の文字コードでは文字化けする場合があり、しかも改訂版のソフトが出ていません。漢文読解の需要が減っているからでしょう。
対して『大漢和辞典』のソフト版が出ていますが、価格は約10万円超と高価です。加えて文字データではないので、記事をコピペすることができません。しかも元の編集が古いだけに、高校程度の古文・漢文の知識は最低限必要です。もっとも、皆さんにはそれがおありでしょう。
あとの選択肢としては、『字通』のオンライン版が利用できるようです。ただし月々の会費が必要です。いずれにせよ2019年現在では、紙の字書を引きこなすか、相当に出費を覚悟してデータ検索するしかありません。恐縮ながら、皆さんの覚悟が試されるところです。
もしどうしても大型の字書に抵抗があるなら、角川書店の『新字源』を入手して下さい。小型の辞書の中では、漢文を読むのに適しています。かつては『支那文を読む為の漢字典』が勧められもしましたが、解説が文語体で部首索引しかありません。こんにちでは骨董品でしょう。
ただし『支那文を読む為の漢字典』には熱烈なファンがいて、実は訳者もその一人で、二冊持っているほどです。小型辞書ながらこと漢文読解に関しては、使いこなしさえ出来るなら、非常に強力なツールだからです。しかも有り難いことに、無料で検索・参照できます!
→web支那漢
最後に裏技をもう一つ。中国語が読めることが条件ですが、無料で利用できる「漢語網」があります。語彙数が少ないのはやや難有りですが、釋文はそこそこ充実しています。事情あってリンクは貼りませんので語彙検索して下さい。『大漢和辞典』より使いやすい面もあります。
漢文は多義語で語義の選択に迷う
字書の問題はクリアしたとして、次の問題は漢字そのものが持つ意味不明です。ほとんどの漢字は多義語です。そして時に「乱」のような、”みだれる”と”おさめる”のような正反対の語義を持っていたりします。覚えてしまえば何でもないことですが、それまでの苦労は大変です。
次に漢字は、それが名詞なのか動詞なのか、または助詞や接続詞なのか、見ただけでは分かりません。極端な例は固有名詞で、初めて見る漢文に「完顔阿骨打」と出てきた場合、”ワンヤンアクダ”が金朝の皇帝であることを知らなければ、どこで区切るのかさえ分からないでしょう。
加えて漢文は時代が下るほど、和歌で言う「本歌取り」が多用されます。元になった古典を知らなければ、意味が全く取れないことになります。つまり漢文は、楽屋ネタに通じた人物に向けた文章で、広報性とともに暗号性を多分に持ちます。閉じた社会の言語なのです。
こうした楽屋ネタは、ネタに通じるしか知る方法がありません。その分野の本を読んで、事情を知ることが求められるのです。しかしそれでは漢文読解に習熟することが、ますます遠い道のりになります。初心者に漢文読解を学ぶ事が、そもそも出来ない相談なのでしょうか?
そうは思いません。どの時代であれどの分野であれ、漢文の基本は同じだからです。そこでお勧めしたいのが論語を読むことです。前近代、中国のインテリの子供は文字を覚えたあと、ほぼ全員が論語を読みました。つまり漢文の書き手の脳裏には、基本として論語があるのです。
漢文の素養がないまま、後世の史書や文学書を読むのは、難攻不落の要塞に挑みかかるのに似ています。さまざまあるそうした要塞にも、共通点があるとすればどうでしょう? それが論語です。つまり論語の文法さえ覚えてしまえば、他の漢文に攻略の方針が立てられるのです。
漢文和訳の目標は、まずは論語の標点本から
今ここをご覧の皆さんは、あるいは漢文の白文と標点文をご存じかも知れません。漢文は本来縦書きで、しかも句読点を付けず区切りも空けず、文頭からおわりまでをつなげて書きます。これが白文です。対して白文に句読点を付け、区切りを付けたのが標点文です。
子曰學而時習之不亦說乎有朋自遠方來不亦樂乎人不知而不慍不亦君子乎
標点文)
子曰、「學而時習之、不亦說乎。有朋自遠方來、不亦樂乎。人不知而不慍、不亦君子乎。」
標点本は時に句読の付け間違いがあり、また日本語と中国語の違いから、必ずしも全面の信頼を置けませんが、それでも区切りが付いているだけでも、まったく読みやすさが違います。加えて中国学を専攻する皆さんでさえ、ほとんどは標点本を使って研究を進めることでしょう。
もし白文を読むなら、まずは標点本が読めねばなりません。そこでこの教室では、論語の標点文を提示しながら、それが読めるようになることを目指します。読み下しも語釈も提示しますので、みなさんは字書を引く必要はありません。読むだけで済むよう工夫してあります。
誰でも覚えのあることでしょうが、語学で何よりイヤなのが、辞書を引くことだからです。それを通過すれば、字書無しの天国が待っているかも知れません。しかし漢字は表語文字である上に、ほとんどが多義語ですから、漢文では字書無しの天国などほとんどありえません。
辞書無しで英会話の出来る人は珍しくありませんが、字書が書けるような漢学者はほとんどいなくなりました。それこそ中国や江戸時代の儒者のように、子供の頃から漢文を叩き込まれでもしないかぎり、現代人には無理な相談です。みなさん、字書と仲良くなりましょう。
漢文の構造を知ろう
あたかも文法不在に見える漢文ですが、人間の言葉である以上、一定の規則に従って書かれています。ただし漢文は諸言語の中でも極端に簡略化された言語で、書き言葉でも話し言葉でもありませんし、日本語で言うてにをはに当たる記号がほとんど記されません。
例えるなら漢文は、戦前まで日常的に使われた、電報に近い言語だと言えるでしょう。電報はカタカナのみで記され、一文字いくらで料金がかかりましたから、てにをはを省略して送るのが一般的でした。それゆえ電話普及以降には考えられないような、喜劇が起こりもしました。
戦時中海軍士官だった故・阿川弘之氏の『海軍こぼれ話』によると、海軍には独特のし●ネタ話があったそうです。帝国海軍は男ばかりの社会ですから当然で、事情は全国の女子校と同じです。阿川氏によると「Y談とは違う」そうですが、はあそうですかと伺っておきましょう。
若い海軍士官は見た目は美々しい制服に身を固めていましたが、給料がトホホで、お金に苦労したそうです。ある若き士官、朝鮮半島の鎮海湾が勤務地でしたが、思わぬ休暇が与えられ、自宅のある対岸の佐世保まで戻れることになりました。そこで節約して奥さんに電報を一打。
「鎮海湾を立つ。すぐに佐世保に来い」のつもりです。久しぶりの休暇ですから、奥さんとゆっくり過ごしたいというのです。しかし実家で過ごしていた奥さんは勘違い、士官の義父は大激怒。何たる不埒な電報か。しかし無視するわけにもいくまいと、奥さん返電を打ちました。
どうも下品な話で恐縮ですが、漢文も一歩間違うとこういう喜劇になりかねません。それを防ぐには、一字一字が文中でどのような働きをしているか、カギとなる語の品詞は何か確定する必要があります。しかし格変化は原則無し、てにをはもほぼ無い漢文では、どうやって?
まずは語順です。主部があって後ろに述部という形式は、漢文も日本語も変わりません。そしてもう一つ、漢文には基本となるフレーズの種類が六つあります。そのフレーズの組み合わせで、複雑な文意を表現するのですが、あらかじめ種類を知っていれば、楽に読めるはずです。
その詳細はおいおい語りますが、長い漢文をフレーズ(句や節)に分解し、そのフレーズがどの種類に当てはまるのかを見分ければ、おのずと品詞も確定し、引くべき辞書の記述も限定できるというわけです。これなら誤読をすることも、途中で翻訳不能になることもありません。
いずれ辞書を引かねばならないとしても、その作業量が減らせれば、漢文に対する「イヤ気」も減るでしょう。およそ学びということでは、やる気をくじかれるのが何よりも障害です。それが防げるのであるならば、わずかな文法の暗記でさえ、きっと報われることでしょう。
こんにち漢文は、すでに死語に近くなった言語です。それに敢えて取り組もうとする皆さんには敬意を表しますが、系統立った読解の教育は、これまでほとんどありませんでした。これから取り組もうとする皆さんが、かつてのようなイヤ気と苦労から、解放される事を願います。
地道に辞書を引く根気さえあれば、漢文はさほど難しい言語ではありません。順列組み合わせに似た作業が必要ですが、数Ⅰの因数分解よりは簡単です。ここで一通り学び終えたら、意外にも漢文は読みやすいこと、そして学者でさえ誤読している例が多いことに気付くでしょう。
少なくとも、訳者と同程度には読めるようになることは請け合いです。訳者とて、初めて読む漢文では間違いもしますし、字書無しで漢文を読むことなど思いも付きません。系統立った文法の知識と充実した字書。この二つがあるなら、誰でも漢文が読めるようになるのです。
今回のまとめ
- 字書を引くことに慣れましょう
- 漢文の基礎は『論語』
- 標点本を読めるようになりましょう
- 基本的な文法の知識を身につけましょう
それでは今回はこれでおしまいです。みなさん、お疲れさまでした。
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